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鳩の随想

¥600 税込

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『鳩の随想』

500字未満の、空想混じりのエッセイ集です。20編収録。オリジナルポストカード1枚付き。
文章の中ではたいてい、妙なことが起こります。それはもちろん空想ですが、私にとっては実感なんです。いのちの不思議や、忘れたくないことについて書いています。

<収録内容>
夢うつつの海辺/パーカーの天使/上空で眠る/黒い服を着る/まくらの門/インコの群れ/生鮭のにおい/終わりがあるから/花をかざる/あたたかい手/わたしの天使/髪を染める/生活の内/青は血の色/アルコールの湖/緑の窓/ドーナツの好み/発光する肌/糸を編む/満開の桜に下に


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『花をかざる』(全文)

 気持ちが塞いだとき、すがるような思いで花を買うことがある。暗いニュースに触れたときや、身近な人やペットが病気になったとき。未来が不安になったときでも花を見ると心が和む。鮮やかな色彩やぴんと張った花びらに生命力を感じる。透けるような質感や淡い色合いや仄かな香りにうっとりする。
 元々、切り花はあまり好きではなかった。かざるためだけに摘み取ることにどこか抵抗があった。だから私は根のある植物を育てた。鉢植えの中で日々変化する色や形を眺めるのが楽しみで愛おしかった。だけど、かれらの命運を常に自分が握っていることを重荷に感じる日もあった。心が弱っている時、庇護対象を愛でる余裕はなくなってしまうのだと知った。それでわかった。だから切り花がいいのだ。一番良い時を切り取られた美しい花は、花瓶に入れた数日間だけ精一杯みずみずしい姿でいてくれる。萎れたら捨ててもいい、責任を負わずに済む気楽さにこそ私は癒される。
 今日も窓辺に花をかざっている。その内数本の花びらが縮んで変色し醜くなっている。私はそれを花瓶から抜き取り躊躇なくゴミ箱へ捨てる。花は何も言わない。咎める人は誰もいない。そのことに私は安心する。



2022年3月19日発行 B6ホチキス留め製本 全20ページ ポストカード1枚つき

※ポストカードの柄と表紙のテープはランダムです。

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